古くから伝わる知識や知恵をもとに土壁や漆喰壁をつくること、傷んだ壁を手入れすること、それがしっくい浅原の仕事です。
数十年前ならば当たり前のようにあった技術が急速に失われていくなかで、先人たちの膨大な知見を収集・整理・再構成しながら現代に受け継いできた私たちに、いま何ができるのか。
その根っこの部分をお伝えしたいと考えました。
効率化の進んだ昨今の壁づくりとは異なり、私たちが手掛ける漆喰壁や土壁は、いわば一つひとつがオーダーメイドです。そのため、クライアントとの対話のあり方が重要です。古い文化財の修繕であっても、新たな壁づくりであっても、それは変わりません。 どのような目的や役割を担う壁なのか。印象を決める質感や色はどうか。文化的な文脈に照らして相応しい意匠か。この段階で、言葉や手間を惜しんでいては、ゴールを共有することはできません。
予算・環境・コンセプトなど、あらゆる事前情報を整理したうえで、率直なやり取りを重ねます。その際には、過去の事例や素材のサンプルをお示ししながら、具体的な仕上がりイメージを持っていただけるよう心掛けています。
左官仕事には、鏝(こて)や刷毛(はけ)をはじめ、多くの道具が必要です。職人たちは自分だけの道具を用意し、それぞれが責任を持って管理するのが当たり前。仕事への理解度や自らの技量への眼差しが、如実に現れます。古くから道具の扱いを見れば自ずとその職人のレベルがわかるとされる所以です。
職人たちは頻繁に使う、いわば手に馴染んだ道具こそ、もっとも自らの姿を映す鏡であることを理解しています。つまり、いつもの道具を決してあまく見ない。クライアントの期待に応えられるように、自らに恥じないように、体調を管理するように道具と向き合っています。
私たちは、これまで培ってきた技術や知恵を大切にしています。しかし、それがそのまま未来に受け継がれるとは限りません。変わらず必要とされるかどうか、コストに見合うと判断されるかどうか。すべては、これからの人と時代の選択に委ねられています。
それでもなお、若い世代が私たちの技術や考え方を学びたいと願うならば、その挑戦を歓迎します。互いに刺激し合い、高め合える場をつくること。新しいアイデアを形にする機会を提供すること。そして、いつか自分なりの答えを選び取れるよう、しっかりと鍛えていくこと。それが、私たちの役割だと信じています。